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ヤドリウメマツアリとその生態及び飼育方法

投稿:アリ部長  
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ヤドリウメマツアリの生態

恒久的社会寄生種

 ヤドリウメマツアリは女王の体長約2.5ミリ、雄アリの体長約2ミリと、日本産アリの中でも比較的小型な部類のアリになります。体色は女王が赤褐色、雄アリは黒色で、ウメマツアリ亜属によくある色をしています。

 ここまで読んでお気づきになっている方もいらっしゃるかもしれませんが、女王や雄アリについての記述はありますが、ワーカーについての記述は一切ありません。一体何故でしょうか?それはヤドリウメマツアリにはワーカーが存在しないからです。では、餌の調達や幼虫の世話はどうしているのでしょうか?幼虫の世話だけならまだしも、餌の調達にわざわざ女王自ら赴くのはリスクが大きすぎます。そもそも、「社会性昆虫でいる意味があるのか?」とも疑問に思ってしまいます。

 先ほど「ヤドリウメマツアリにはワーカーが存在しない。」と言いましたが、実はヤドリウメマツアリの巣にはワーカーがいます。実際、私が採集したヤドリウメマツアリの巣にはヤドリウメマツアリ女王や雄アリ以外にたくさんのワーカーがいました。ではこの「ワーカー達」は一体何者なのでしょうか?少なくとも、ヤドリウメマツアリのワーカーではないことは明らかです。実を言うと、この「ワーカー」はヒメウメマツアリのワーカーなのです。そう、ヤドリウメマツアリはヒメウメマツアリに社会寄生しているのです。「社会寄生」とは、「社会性昆虫のアリが他種のアリの巣内に入り込み生活すること」を言いますが、この社会寄生には大きく分けて3つのタイプがあります。サムライアリやアカヤマアリが行う奴隷使用、トゲアリやアメイロケアリ亜属、クサアリ亜属が行う一時的社会寄生、そしてヤドリウメマツアリが行うのが恒久的社会寄生です。ここで、恒久的社会寄生について説明をしておきます。この恒久的社会寄生は最も特殊化が進んだ寄生形態で、社会寄生の最終形態と言えるでしょう。では、他の奴隷使用や一時的社会寄生とはどう違うのでしょうか?その違いは寄主の女王を殺すか殺さないかにあります。奴隷使用や一時的社会寄生では寄主の女王を殺すことが通例ですが、恒久的社会寄生ほど高度な寄生形態になると、寄生の女王を殺さないようになります。このような状態になると、完全に1つの巣に2種のアリが生息するようになります。どちらかというと「共生」に近いイメージです。この段階に達しているアリは、日本では現在ヤドリウメマツアリしか確認されていません。

 ここまで恒久的社会寄生について説明してきましたが、恒久的社会寄生種であるヤドリウメマツアリは何故寄生先のヒメウメマツアリによって巣から追い出されないのでしょうか?

 アリでは種やコロニーによって体表面の炭化水素成分の組成が異なっており、対象物の表面に自らの触覚で触れることで、その体表炭化水素の情報を読み取り、仲間か敵かを判別しています。つまり、ヒメウメマツアリに寄生したいヤドリウメマツアリからしたら、この炭化水素の組成をヒメウメマツアリに限りなく似せれば仲間だと認識してもらえるのです。実際に、ヤドリウメマツアリ女王はヒメウメマツアリのワーカーに体表成分を似せることで化学的に擬態していることが分かっています。この擬態によって巣から排除を避けていたのです。

 ヤドリウメマツアリ女王はヒメウメマツアリワーカーに擬態するために体表成分を似せていると言いましたが、体表成分だけでなく、体長もヒメウメマツアリワーカーと同じくらいなのです。 


左:ヒメウメマツアリワーカー

右:ヤドリウメマツアリ脱翅女王


ヤドリウメマツアリの飼育方法

 ヤドリウメマツアリの飼育方法ですが、実質的にはヒメウメマツアリの飼育と何ら変わりません。今のところ餌の選り好みが激しいイメージはないので、飼育自体は簡単なものと思われます。


ミールワームに頭を突っ込むヒメウメマツアリワーカー

飼育環境:石膏を彫ってできた高さ1ミリほどの部屋の上にスライドガラスを隙間ができないように被せて、石膏で接着することで巣部分を作りました。餌場と巣が一体となった環境になっています。

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