こころを喰らう僕を喰らう
中華系の現代ファンタジーが書きたかっただけ。
支部の方で和風系しか上げてなかったし。
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[自分でも分からなくなるから用語集]
◉周青(シュウセイ)……中国語ではゾウチンと読む。バケモノとニンゲンが共存する世界線の都市で、台湾みたいな街並み。
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#1……2020/06/13
#2……2020/7/5
#2.5……2020/7/8
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#1
少し赤く霞んだ夜空に、紅い血飛沫が重なった。
“不死”と崇められてきた白龍が、頸を斬り落とされて呻いている。
斬った張本人である僕は、冷静を装って、スマホ片手にその様子を録画していた。
ビル風が吹く。
「こんなもんかな」
勤怠連絡代わりにその動画を上司に送り付けて、スマホをポケットに突っ込む。
廃ビルからの、この朝焼けは生涯忘れないだろう。
中華匂わす街の闇、君の影で、僕はいつも暮らしていた。
だからこそ、伝説に命を懸けたのかもしれない。
本来なら、ただの仕事だ。
直接対決などせずとも、もっと他の殺し方もあっただろう。
身の丈に合わない大きさの鎌を背負い、溜息をつく。
そして、斬り落とされた白龍の頸を追うように、自らも地へと身を落とす。
これくらいじゃ死ねないと、解っていた。
バケモノとニンゲンが共存する街、妖都・周青。
商店街の路地裏に逃げ込んだ僕を嘲笑うように、提灯が揺れた。
「千早くん、久しぶりだねぇ! 暫く任務続きだったのかい?」
露店のおじさんが、声をかけてくれる。
「はい、ちょっと大きな仕事が立て続いてて…落ち着いたらまた来ますね!」
「千早」としての笑顔を浮かべて、足早にその場を去る。
────嗚呼、僕はどうすれば。
日々の喧騒にまみれて足りないものを探す。
少しの荷物しか持たず、旅に出てしまったんだ。
まるでバックパッカー。
未だに届きやしない理想を追いかけている。
勢いで踏み出した現実に呑まれそうなほどに。
僕の円柱系のリュックから、ケタケタと嗤い声がした。
僕の相棒である、“吸い殻さん”の声だ。
昔、廃れた路地裏で拾った、鎌へと変形も出来るバケモノである。
名前は無いらしいので、煙草のような容姿から名付けてみたのだ。
「急展開なんかに期待しなくたってさ、きっとあの人はもう来ないって」
諦めに近い声が聴こえた気がした。
ある筈ない。全ては幻影だ。
吸い殻さんの声さえも幻聴でしかない。
リュックのチャックが開き、大きな舌が飛び出る。
あたかも最初からただの歯だったかのように鋭利なチャックを見て、僕は溜息をついた。
──リュックに憑依したのか…。
だからといって何をする訳でもなく、僕はまた前を向く。
ふと思いつき、アブラカタブラ、なんておまじないみたいなものを口にしてみては、恥ずかしさで顔を背けて。
あの人の帰りを今も待ち望んでは、変わらないままの現状に安堵してしまう。
何か、目玉のようなものの気配を感じた。
すぐ傍から向けられる視線が痛い。
これは吸い殻さんのものなのか、何か別のものなのか。
薄気味悪い感覚をも一緒に持ち歩いていた。
コメント
#2 ふみづきさん: 2020-07-05 09:25:34
命を引き裂く背徳感と感動はすぐに消える。
遠くでは、白龍だった残骸の撤去作業が始まっている。
頸のない胴体だけの姿で、クレーン車に吊り上げられているのが見えた。
あれの頚を落としたのは僕だ、なんて言ったら、どういう反応が返ってくるのだろう。
心配されるか、馬鹿にされるか、警察に突き出されるか。
どうやったら僕を認めてくれる?
凄いな、偉いな、って褒めてほしいのに。
これは駄目、あれも駄目とか、焦りだけが募る。
おまじないを唱えてみても、満たされない。
もうあの頃とは違うのだ。
このやるせなさは何処に捨てればいいのだろう。
何かを咀嚼したい衝動に駆られ、路地裏のゴミ箱を漁った。
──隣に握りしめる手が欲しい。
僕は君以外の温もりを知らないのに、君はいない。
ドゴッ、と大きい音がして、白龍の胴体の一部が目前のアスファルトに叩きつけられた。
……何故?
頸を斬ったのはあくまで僕自身で、白龍は今頃はまだクレーン車に吊り上げられたままだろうに。
他の誰かが、斬り落としているのか。
それとも、他の理由か。
感情の種類まで貧しくなって、彩度の低い灰色のビルの海を彷徨った。
本当は、美は満ち溢れているんだろう。
ただ僕がそれを見過ごしているだけの話かもしれない。
真実を確かめたくなって、僕は再び白龍を斬った現場に向かう。
ビル街の屋上行きの野外エレベーターに飛び乗った。
───お腹が空いた。
ポケットの中から1つの包を取り出して、剥く。
出てきたそれは、橙の飴。
口の中に含もうとしたその瞬間、嫌悪感が背筋を走る。
……見てはいけない。
そう気づいたのに、人間というものは厄介だ。
望んでもいないのに、体が勝手に後ろへ振り向く。
本来見える筈のないもの───見えちゃいけないもの───見たくもなかったもの───が、空を泳ぐように、上空へと突っ切る様子が見えた。
「……は、」
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#2.5 ふみづきさん: 2020-07-08 21:42:48
「ねぇねぇ千早兄ちゃん」
甘えた声で千早に縋り付いてきたのは、生まれ故郷に置いてきた弟の千李だった。
「どうした?」
「兄ちゃん、昔みたいに都会のこと教えてくれないんだね」
「……ああ、そうだね」
兄ちゃんの話、楽しみだったのになー。
残念そうにぼやく弟に、何とも言えぬ顔で笑い返すことしかできない。
汚れてるんだ。
都会は、君の目に映すには、穢れすぎて。
「それより千李、宿題終わったのか?」
「ああーー!!そうだった!算数教えて!!」
ワークを取りに走っていった。
ドタバタと元気な足音に耳を傾け、千早はくすりと表情を緩ませた。
全てはそう、彼を含めた大切なものを守るため。
自己犠牲の精神に憑りつかれた魔物にだってなってやる。
────明日の朝、この我が家を出よう。
大切なものに干渉しすぎるのは、禁物。
それが、この職の掟だった。
彼の名は、千早。
またの名を、死神・夜闇────輪廻黄泉局の局員だ。
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#3 ふみづきさん: 2020-07-15 20:09:24
────あのあと、自分がどうやってここまで戻ってきたのか、全く覚えていない。
でも、エレベーターから見えたものはしっかりと覚えている。
まさに空を泳ぐが如く現れたのは、死んだはずの白龍。
斬られた頸はそのままで、上へと駆け上っていく。
ただ、尋常ではない程の狂気と殺気が自分に向けられていることだけは分かった。
全身の毛穴という毛穴から吹き出る冷や汗。
「逃げるが勝ちだ」
いつだったか、上司がよく口にしていた言葉をふと思い出す。
そして、そのまま記憶は飛んでいる。
────気付けば、見知らぬ街の居酒屋にいたのだ。
「あ、あのぅ…」
「なんだぁ? まだ飲むか〜? 俺も〜!」
隣の見知らぬ酔っ払った青年は、楽しそうにグラスを持ち上げた。
駄目だ。恐らく会話が成立しない。
かく言う自分も、知らぬ間に少し酒が入っている。
……控えめに言って、恐怖だ。
「ちょーっと灰谷さん! 勝手に飲み歩かないでくださいよー」
隣の青年に、迎えが来たらしい。
「ちょっと…他のお客さんを巻き込んじゃ駄目じゃないですか…」
呆れるその少年は、僕と年が近いようだ。
……そういえば、僕ってまだお酒飲める年じゃないんだけど。
柔らかそうな茶髪を揺らす、『THE・優男』の少年をぼんやりと見つめながら、考える。
「……あの、ここって周青のどの辺りですか?」
「周青?」
聞き慣れない、と言わんばかりに首を傾げる少年に、ふと、嫌な予感がする。
「妖都の…周青って……」
暫く、少年が黙る。
そして、ハッと顔を上げる。
「君、どっかで見たことあると思ったけど……輪廻黄泉局の人だよね?」
不意に職場を当てられて、情けないが焦ってしまう。
誰にも言わずに、自分だけの秘密にしていた。
死神なんて、表立って言うようなことじゃない。
酸欠の金魚のようにパクパクと口を動かす僕を、少年は面白そうに笑う。
「俺は、29代目小野篁、本名は小野樹。君の隣で寝てるのが、俺の先輩の灰谷さん。よろしく!!」
急転直下の展開に訳も分からず、僕は差し伸べられた手を握ることは出来なかった。
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