ちろ さん
かつては確実に存在していたのに、いまは跡形もなく消え失せているもの/記憶のなかにしか存在しないもの。『ニューヨーク製菓店』という今は存在しない場所を基軸に語られる著者の記憶。
「しかし、果たしてそうだろうか?単に消えてしまえばそれまでだろうか?」その問いと共に、追憶の持つ意味が語り手のなかで変化し、現在の自分の人生を肯定する灯りへと変化していく。灯り自体の変化というよりも、灯りに対する語り手の視線が、人生を経ることで変わっていく。
「どうせ人生とはそういうものではないか」たったこれだけの言葉が、短い物語のなかで異なる意味を帯びる瞬間。
自分の中にも、読者のなかにもそれぞれ『ニューヨーク製菓店』なる場所/灯りが存在している。『ほんの少しでも良い』、生きていくために必要な灯り。その存在に気付き、自分の人生を生きるための灯火となるように。
本当に短い、独白のようなこの物語にずっと胸を掴まれる。すごい短編でした。