はせがわさい さん
最近ふとしたことがきっかけで韓国文学の世界に足を踏み入れました。ただただ偶然ですが「今、わたしが求めているものは韓国の本にすべて書かれている」ような気がして、どこか救いを求めるような気持ちで本を読んでいます。
恥ずかしながら、キム・ヨンスさんの作品を初めて拝読しました。
文学のなかでクリスマスが語られるとき、それは「(もう二度と戻ることができない)あのときの懐かしさ」がセットになることが多い気がします。この小説は、キム・ヨンスさんの自伝的小説なのだとお見受けしますが、著者自身がもつ思い出に、自分の幼い頃の思い出や、故郷が様変わりすることへの形容しがたい感情が重なる瞬間がしばしばありました。
「文学」がそういうものなのか、私には知識がないのですが、小説のなかでキム・ヨンスさんはとても静かに物語を語っていらっしゃるように感じます。自分ごとでありながら。でも、描かれるものの細部に、隅々にまで、在りし日を思い出すときのやさしい感情や、ニューヨーク製菓店への愛、家族を大切に思う心みたいなものをじんわりと感じるのです。それがとても心地よかった…。(P20からP21のクリスマスのしつらいを具体的に描写するシーン、物語の核心をつく場面ではないと思うのですが、そこがとても好きです)
「この世に存在しない何かが私を生かしてゆく」ということを、深い実感を伴って悟ったことは私にはまだありません。でも、「人生とはそういうものである」とこの小説が教えてくれたから、私はもしこれから辛い日々が訪れようとも、堂々と思い出にすがって生きていけると思いました。
クリスマスが近いこの時期に、この物語を読むことができて幸福でした。これからもっと、キム・ヨンスさんの作品や、韓国の文学を読み続けたいと思いました。