ひろ さん
ここにもう存在しないもの、消えてしまったものこそが現実なのだ、ということが、書かれているのだと思いました。
それも、灯のように揺れながら、これを読む私のなかでそのことがかたちづくられるように書かれています。
母や父への心情、関わり方、自分自身の感情や性質に対するもどかしさやプライド。「私」が胸の中にすまわせてきたもの、とくにウエットなものを取り出して書かれているのですが、その書き方がドライで、遠くから「私」自身を見守るようにも分析するようにも書かれている。そのバランスにも惹かれたし、だからこそふと率直に取り出されて書かれた思いのえぐさみたいなものが、こちらに届くのかもしれません。
「ある日、私はふと、もう自分が生きてゆく世の中には苦しいことだけが残されていると考えるようになった。」
こんな言葉が率直に記されていることに立ち止まりました。
記憶のなかの時間に沿って、何度も灯りや「は」の話に立ち戻る。立ち戻るたびに、ここにもう存在しないもの、消えてしまったものこそが現実なのだ、という感覚が濃くなっていくように思います。
過去という時間が「私」のなかで混じり深まって成り立つ〈現実〉というものが、読む私に届き、私を灯らせるように存在することを考えさせます。
私の中に自覚せずにしまっているだろう灯りを取り出してみる、という作業をしてみたいと思ったし、このように率直に私は私を読みたいと思いました。