maica さん
私はまだ故郷を離れたことがない大学生ですが、急に自分の故郷を恋しく思いました。
きっと、ここを離れる機会が訪れるまでは感じることがなかったような恋しさだと思います。
主人公が回想するのはニューヨーク製菓店のほんの些細なエピソードと歴史、その時々の時世です。そんな中にも、自分の人生をこれから先、灯してくれる存在である思い出がたくさん積もっていることが分かります。
子供の頃は何とも思わなかった風景にも、大人になった今になってその時々の大人の気持ちを考え直せば、そこには母親や父親の気持ちが確かに存在していて、思い出だけに終始していた記憶がさらに温かいものとして蘇る。
そして、最後にそういうものではないかと読者に語り掛ける時に、主人公がこの思い出話を語りたくなる気持ちが伝わってきました。
そういうものではないか…そうやって人は自分の中の灯となる思い出たちを大事そうに引き出して誰かに語ることで、人生を「そういうこともある」「こういうときもある」と受け入れていっているのではないかと感じました。主人公の母親が主人公に語ったように。
いつか私が今の状況を「そういうときもあった」と語りたくなるような、そんな灯のような記憶になってくれるような、そんな瞬間が積みあがってくれたらいいなと思う読書体験でした。