本サイトは、SHARE info(シェアインフォ)で作成された投稿型サイトです。
今すぐ、無料で、簡単に「投稿型サイト」が作成できます。

心臓に飴衣。

投稿:▷ めーぷる = れっどうぃんぐ ◁  
通報 ウォッチ 0











幸せの追憶は、きっと、甘く脆い飴衣。











コメント

    ▷ めーぷる = れっどうぃんぐ ◁ さん: 2020-06-15 21:14:23

     0・祭り囃子の林檎飴。



     浴衣、甚平、下駄、お面。
    場違いな制服のスカートを揺らして、祭り囃子に抗うように
    人垣をふらふらと縫い進める。
     焼きそば、かき氷、チョコバナナ、わたあめ、
    鼻を掠める食べ物の匂いは、祭りだ祭りだと、喧騒に溶けている。
     財布に付けていた小さな風鈴が軽く高い音を鳴らした。
    ふと目につく、林檎飴の文字。
     ぱたぱたと扇子で風を求めるように、旗がゆらゆら泳ぐ。
    その隣に200円と手書きの看板。相変わらず安い。
     最近は街の方のお祭りじゃ苺飴ばかりで、林檎飴は年に1度の
    この神社の夏祭りでしか食べられない。だから、この祭りに
    来たときは林檎飴を逃さないように一番最初に買いに行くのだ。
     嬉しそうに林檎飴をかじる幼い男の子に頬を緩めながら
    長い列の一番後ろに並んだ。
     「おいしい?」
    「うん」
    「ままのご飯とどっちおいしい?」
    「りんごあめ!」
    「え~」
     ふふ、と思わず笑いながら1歩進む。
    2歩目の頃に、もう話し声がここまで届かなくなったから
    幸せそうな親子から視線をずらした。
     左斜め下で緩くまとめた髪が1回揺れて、楽しそうに友達と話す
    女の子が林檎飴を握って列から抜けて、まだ真っ白のスニーカーを
    1歩前に出して、また鈴が鳴って。
     視界の端で、林檎飴を持った男の子が後ろを振り返ったとき。
    きらりと、提灯を反射して飴衣が赤く光った。
     そのまま、陰に呑まれては光って、呑まれて、くるくると廻る。

     ぱしゃん。

     黄金色がかった透明の欠片と、あかい果肉が小さく跳ねる。
    飴衣に、提灯の光が反射して、綺麗だった。
    それでも毒を飲んだように心臓がおかしな音をたてる。
     なんとも言えない虚しさに軽く瞳を閉じた。
    ぐちゃ、と潰される林檎を、靴の裏を見て最悪、と溢れている声を
    どうにも、消し飛ばしたかった。
    途端、切るような泣き声が響いて、どうしてか、泣きたくなった。
    なんて。本当は分かっていた。
     何時かの自分に似たそれが、赤い血のように地面に融けるのを、
    幸せとかいう酸っぱい毒林檎をくるんだ甘い景色が、
    何時か視た夢が。潰れて熔けて往くのを、黙って、眺めていた。
     この世界には、消えていい命なんていないというけれど。
    それじゃあ、彼女は。彼女ばかりが。

     なにも報われないじゃないか。

     鈴の音に合わせて、祭り囃子の騒がしさに、子供の泣き叫ぶ声に
    夜に映える林檎飴に、思い出が木霊する。
     薄い木陰が揺れるのを何時までも眺めていたあの夏が。
    瞳の奥、脳の下、心臓の底を、駆け廻る。

     嗚呼、また。


     また、何時かの夢に、溺れてしまう。
      
       
      
       
      
      
       

    通報 0

    ▷ めーぷる = れっどうぃんぐ ◁ さん: 2020-06-15 21:18:34

    -1・吐血。



     小さい頃から、他人とは違うものが見えていた。
    それが何かその頃は分からなかったし、なんでもよかった。
    ただ、大好きだった。人間よりずっと、好きだった。
     多分、だからこそ、どん底に突き落とされた気分だった。
    大好きで大好きで大好きで、彼等は私の居場所だった。
    彼等ばかりが大切だった。
     だけど、
    突然、世界から音が減って、生き物が減って、色が褪せた。
     私の世界の中心が、私の世界から消えたのだ。
    見えない。感じない。聴こえない。
     ガラスが割れるような音がした。
    ぱしゃんと、弾けた音がした。私の周りを固めて守っていた飴衣が
    粉々になった。味もしない、不味くなった飴衣を、
    必死にかき集めて飲み込んだ。漢方を飲むみたいに、
    美味しくないのを我慢して飲み込んだ。
     なんでなんでなんで。どうして。
    居場所なんてもうない。嫌いなんだよ人間なんて。
     必死になって、伝う冷や汗を拭って、かき集めた飴衣の欠片を
    何度も何度も飲み込んで、だけど、甘いだけの飴衣なんて、
    鋭くて、痛くて、強くなっていく甘味と苦味で喉が焼けて。
     もうどうしようもなかった。
    喉が切れて血を吐いた。気持ち悪くて記憶を吐いた。
    だけどそれでも、しんどくなっても、息を吐いて、汚した。

     汚してしまったんだ、全部。

     想い出も過去も未来も感情も思考も地球も宇宙も、
    もう全部、みんなと同じように、誰かの命をもぎ取って
    圧縮してすりつぶして溶かして、一面に塗ったくった。
     気持ち悪かった。
    綺麗なものがぼろぼろと剥がれて落ちていった。
     汚いもので窮屈に型をとられて、気付けばそれが
    自分に為っていた。
    嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
     目から零れる滴も、口から吐き出す言葉も、全部、血になった。
    血は、水に溶かして、すぐに捨てた。
     ちゃんとしたごみ箱なんてないから、何処にだって捨てた。
    中心のない世界は、ぶれてぼやけて、必要性なんて
    これっぽっちもないから、自分の世界がごみ箱になった。
     要らないもの要るもの、なんだって捨てた。
    だからいつしか、記憶だって抜け落ちた。
     辛うじて線香花火みたいに吊られた、
    今にも落ちそうな心臓を支えたのは、飴衣。



      甘いだけの、飴衣だった。



     年に1度の夏祭りの日だけ人が集まる、山の麓の古い神社。
    空気が綺麗で好きだった。だからよく、親には友達と遊ぶと言って
    その神社に行った。
     そこにはいつも女の子がいた。
    幽霊とか、神様とか、多分、そんな類いの。
     見た目は私より少し上くらいで、だけど生きてきた時間は
    もっと長いんだと思う。
     ただ、すごく、綺麗だった。
    彼女が笑うと、ひゅ、と息が鳴る。
     空気に熔けそうな、そんな綺麗さ。美しいと言うより、綺麗。
    きらきらしていて、なんていうか、早朝の太陽と
    夕暮れの薄い星屑を混ぜたみたいな、
    夏の爽やかさに似ているような。
     耳に透明の風鈴をつけていて、それがバーチャイムを
    揺らすような音で歌った。
     頭の上には天使の輪みたいにして雫の硝子と小さい星が
    浮いている。彼女の透明な瞳と同じで、空の色を反射した色で
    揺れる。
     半透明の蒼白い髪は風の色を反射した。
    左手首にぽっかりと空いた底のない大きな穴には宇宙があった。
     笑うと、太陽と月と星と灰色の雲の下で、雨が咲く気がした。
    カラン、と氷が溶ける音がする気がした。
     学校で嫌なことがあってもその笑顔を見たら忘れられて、
    外れかけの歯車が海底も水面もない海に落ちる音がした。
     気持ちが良かった。
    息が出来た。心臓がちゃんと呼吸をしていた。
     生きていたいと、其処でだけは思えていた。



     だからまだ、溺れていたいと、思い出す。

     割れた林檎飴を眺めながら、毒林檎に、自堕落を纏わせた。
        
      
     
     
        
      
     
     

    通報 0

    ▷ めーぷる = れっどうぃんぐ ◁ さん: 2020-06-20 10:59:48

     
    -2・矛盾。


     
     古い神社の、小さな神様はみやと名乗った。
    本当はもっと長い名前らしいけど、詳しくは教えてくれなかった。
    みやと呼んでと、それだけ言って他の思考を掻き消すように
    笑った。
     「ねえねえ、みや。」
    みやが、なに?とこたえる代わりに少し頭を傾げて、簪が揺れる。
    風鈴が軽やかに囀ずる。
     「みやって、神様なんでしょ?」
     透明な瞳と目が合う。雨上がりの空を映して、水晶みたいな瞳の
    奥に虹が咲いている。
     「うーん、」
    困ったように形の良い眉を下げて、少し目を細めると、
    瞼の隙間から覗く虹が揺らめく。
     「神様、では、ないかな。」
     整った顔を歪ませて、笑った。目眩がするみたいに、
    光がみやの周りにまとわりついて、ぐわんと勢いよく廻る。
     雨の匂い。
    「私は、神様に似た、人間なんだよ。きっと、」
    流れ星に願いを乗せるみたいに、空を見つめる。
     そうであってほしいと、願うように、前を見る。
    酷く綺麗な半透明の髪が木漏れ陽を反射して、透き通る。
     もう薄い木陰が風に乗る。
     「ねえ、みや。」
    「なあに?」
     今度は風鈴の音とみやの声だけ。
    ゆったりと眠る白い雲が雨雲を追い越すのが視界の端に見えた。
    虹は元から無かったみたいに消えていた。
     だから虹は、好きじゃない。
    全部、ほんとに全部、そうやってゆっくり透けて消えていく
    気がして、幽霊にもなれずに、残像も残らず跡形もなく消えて、
    そのまま、そのままに、帰ってこなくなってしまう気がして。
     だから虹にだけは、為ってほしくなかったんだ。
     「なんでもない、」
    掠れた声が夜を呼ぶ。陽が随分褪せて、反対の空は暗い蒼。

     執着とか、依存とか。
    綺麗なものはいつか崩れてしまう、だから、まだ。
     この木漏れ陽の中に、神様は居ないままで良い。

     死んだように横たわる大きな木に腰掛ける人間が、ふたり。
    だけど背の方から写し塗りつぶされている人間の影は、
    ひとりぼっちで笑っている。
    隣の透き通った体を、夕陽が真っ直ぐ貫く。虹と同じで影がなくて
    それでも虹はそこに咲かない。だからいい。大丈夫。
     そのまま今日も、日が終わって。
    明日もちゃんと在るんだと確かめるように、透明な声が
    夕陽に暮れる。

     また明日ねと、影に呑まれる。
     
       
      
       
     

    通報 0

    ▷ めーぷる = れっどうぃんぐ ◁ さん: 2020-08-26 08:13:21

    更新停止します、すみません

    通報 0

    ログインしてコメントを書く

    関連する投稿

    • 八月のある日
      小説 - まんまる - 2020/06/19
      八月のある日
      0

      まだ特に何も考えて無いけど「八月のある日」始めちゃいます。

    • Vague stories
      小説 - 静瑠 - 2020/05/10
      Vague stories
      0

      折角此処に来たのに、愚痴しか投稿しないのはあんまりですよ...

    • 狐の嫁入り
      小説 - 2020/05/10
      狐の嫁入り
      0

      白く、艶やかな毛を持った狐の話だ。今では伝説として語り継...