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狐の嫁入り

  
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白く、艶やかな毛を持った狐の話だ。

今では伝説として語り継がれてきた物語の中にいる、白狐という奴である。


その昔、とある山一帯に、白狐の一族が住んでいた。白狐は普通の蝦夷狐や赤狐よりも高貴な雰囲気を纏っていて、妖力があると噂されてもいた。そのためか、近隣の村ではその山を御神体とした、稲荷神社が多かったという。人々は山から降りてきた白狐が畑に入っても殺したりしなかったし、白狐もそれをわかって、不用意に作物を取っていくことはなかった。

その山に、白狐の中でも特異な者が居た。

鈴生(すずみ)というその狐は、雪のように白く、しなやかで艶やかな毛を持っている、綺麗な狐であった。それに加え、彼女はふっさりとした尾を9本持っていた。

一歩間違えれば異形として除け者にされたであろう彼女だが、そうはならなかった。

人間の間のみならず狐の間でも、伝説が生きていたからだ。


九尾の狐。

有名な伝説である。御神の眷属であったり、世の平和を告げる瑞獣であったり、はたまた強い妖怪であったり。残り方は様々だが、いずれにせよ、強く気高い存在として、語り継がれてきた。


その九尾の狐と同じ、九尾を持った白狐。鈴生は仲間内でも特別丁寧に扱われていた。


トントン


鈴生の住まう大木のうろを、訪れた者がいた。

普段共に暮らしている狐は各々、食料を取りに行ったり、遊びに行ったりと出掛けていた。丸まって寝ていた鈴生はそっと目を開く。

「はじめまして。冬哉と申します。」

外から一礼した冬哉(とうや)と名乗るその白狐は、白と言うよりも銀色に近い美しい毛色をしていた。

「…はじめまして。」

見掛けたことのない白狐に、鈴生は首を傾げ、挨拶を返した。

「私は北東の山から来たのですが、こちらの山は紅葉山でしょうか。」

そう尋ねる冬哉の眼を見て、鈴生はハッと息を呑んだ。紅みがかったその狐の眼は、異様ではあるが、どこか神聖な雰囲気を纏っていたのだ。

「そうですけれども。」

なにかあるのか、と言外に尋ねる。白狐は頭を垂れ、こう述べた。


「お迎えにあがりました。」


コメント

    ほさと さん: 2020-05-13 08:26:10

    低頭したままの冬哉に、鈴生は目をぱちくりさせた。お迎えに、と言われても何処からなんのために迎えに来られたのか、皆目見当も付かない。
    「どちら様?」
    眉を下げる鈴生と、低頭したままの冬哉。2人に声がかかった。
    パッと声のした方を見てみれば、鈴生のいる群れの長の娘──風葵(ふき)がいた。知っている相手が来て、ホッと胸を撫で下ろした。いつの間にか頭を上げていた冬哉が言う。

    「はじめまして。冬哉と申します。九尾の狐殿をお迎えに上がりました。」

    聞き違えようのない、凛とした声。
    確かに、鈴生のことを迎えに来たとそう言っている。
    どうしたものか、そう思って風葵を見てみれば、その白狐はハッと息を呑んで、冬哉の桃色がかった眼を見つめていた。
    「……ど」
    どうしたの。そういうつもりだった。けれど、続く言葉は出なかった。
    風葵は、その桃色の眼を持つ白狐に、頭を垂れていた。

    「お初にお目にかかります。紅葉山の長、吟(ぎん)の娘、風葵と申します。」

    心が、冷え込むのを感じた。
    これまでも、何度か感じていた。氷柱の様な、鋭く、固く、冷たい感触。
    それはいつも、鈴生が、自分以外には知らされていることがあるのだと知ってしまった時に訪れた。
    今もそうだ。風葵は、冬哉と名乗る白狐が何故ここに来たのか、知っている。だから、物腰を低くして接している。
    私には知らされていない、何か───鈴生はそっと、ため息を吐いた。

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