額縁にいれられた油絵風の装丁本
DAYS臼井雄太夢本です。
いつも夢を書きたいと思うきっかけは印象的なシーン(1枚絵)が脳に浮かんだ時なのですが、今回あまりにもそれが鮮やかに妄想できてしまったこともあり、それを装丁に落とし込んでWEB再録本として作りました。
とかいえ、私はしがない文字書き(デザインセンス皆無で絵も描けない)なので、今回も絵は絵師様にお願いしております。その中で、なんだかんだ装丁がガッチリ定まっていることが重要だったと思ったので、下記、装丁決定までの流れを軽く書きます。なお、弊二次創作の抜粋やオチバレもあるのでご注意ください。
■今回装丁にしたかったシーン(小説抜粋)=夢主の一目惚れシーン
彼は、窓際でうららかな日の光を浴び、どこか年齢にそぐわない大人っぽい目で外を見ていた。今思えばそれはサッカー部が活動する第二グラウンドだったのだろう。春風をうけてカーテンがはらりと舞ったその瞬間の鮮やかさが、私の脳裏に焼き付く。それは表面だけでなく一瞬にして深く深く脳髄まで辿り着き、忘れることを許さない。外に広がる青い空。ハラハラと舞い込む桜の花びら。きめ細やかな白い肌に、さらりとなびく青みを帯びた銀色の髪。長い睫毛に縁どられた透き通るような瞳——これは、絵画だ。なのに、絵画と認識したものは当たり前のようにこちらを向き、認識と現実の齟齬で私はひどく混乱した。
「おはよう」
耳当たりのよい、雪解けしたばかりの春のような声。あたたかいようでひんやりとしたその声にハッとした私は「てっきり一番乗りかと思ったのに」と小さく意味のない言い訳をした後「おはよう」とだけ返す。
■装丁を考える上での補足シーン(小説抜粋)
学校という美術館の、教室という常設展で、ひときわ目を引く「臼井雄太という肖像」。私はそれを毎日見る鑑賞者の一人。(中略) 一言でいうと「完璧」。華やかな彼の部活仲間も、彼に集まる蝶のような女生徒たちも、どんな者が周りにいたとしても臼井は適度な背景や小道具に変え、決して自身と混じることを許さずに「臼井雄太という肖像」であり続けた。
(中略)
「……実は常々臼井くんって美術館でしっかり管理されているような額がついているって思っていて。何を言われても、臼井くんの額の中に入ってしまえば、何も問題がなくなって臼井くんになるというか、徹底的に温度湿度管理されている額に入ってしまえば何もかも安定するというか……だから私が変なこと言っても、命拾いするというか」
(中略)
「でもそんな喩えをされたのは初めてだよ。どんな額なの?」
「どんな額って……意匠が凝った銀色の額縁に強化ガラスって感じ?」
■装丁・用紙の決め方
上記シーンとその後の補足を踏まえ、本を手に取る時は中身をまだ読んでいないので、額装の外から見た臼井でファーストインパクト(強固に額装されたガードの高そうな美しい人)をもたせ、本編終わりで夢主が臼井の肖像の中に引き込まれるといった描写があるので、額装を剥がせる=読者が絵の中に入れるギミックを採用するべく、表紙を臼井雄太の絵(肖像画)とし、カバーで額装を表現したいということからスタート。
まず、表紙用紙を考えるにあたり、画用紙系のエンボス紙なども考えましたが、イメージに近いのは題名に使った通り「肖像画」だったので、肖像画でよく使われている油絵風にしたいと思い至りました。そして、絵の具の盛りや筆のタッチがうまいこと用紙で出来るものはないか…と探して、OKミューズパールを発見。特殊紙は基本お値段が張りますし、今回カバーも特殊にしたいし、だけどWEB再録だし……と金額面で悩みましたが、変えがたいと判断。実際、発注前に用紙見本を確認しましたが、名前に「パール」と入っている通り、キラキラしているので、恋に落ちた瞬間のキラキラ視界も再現できそうで、自信をもって採用。ただ、凹凸がある分、絵が埋もれるので、絵師様に頼む時にしっかりと用紙銘柄を伝えてイメージを持ってもらえるようにしました。
次にカバー用紙。額縁となると一番に思いつくのは、展示室的な布を表現するためにマットPPかけて~トムソン加工とか窓貼り加工して~なわけですが、さすがに予算オーバー。じゃあ絶対外せないものは何かというと「表紙が見える」ということであり、強化ガラスやガードの固さも欲しかったので、高透明フィルム一択ということになりました。透けが気になりましたが、表紙の色を淡くとり、カバーを濃い色にするとあまり透けないという情報を得て採用。
■出来本について
もちろん絵師様の力もありますが思った以上にイメージ通りの本になりました。特に、高透明フィルムの硬質感と、癖のあるOKミューズパールの差が、額縁と絵画の対比になっていて、想像以上に「肖像」として存在感があります。
市販文庫慣れしている者としては、高透明フィルムの質感が読みやすいかというとそうでもないのですが笑 作品として良い仕上がりになりました。油絵系絵画作品の装丁を考えるとき、一番シンプルな装丁なのではないかと思います。出来本を見るたびに恋に落ちる音がする……
高透明フィルムは今回初採用でしたが、表紙が透けることはなく、思ったよりしっかり重ね絵にできるなと思いました。難点をいえば、予備をつけてもらえるとはいえ、印刷剥がれの初期不良が何枚かあったことと、いくら筋押ししてくれているとはいえ、カバーの浮きはどうしようもならないことです。今回は会場入れではなく、カバー手巻き&家から持ち込みすることもあり、頒布の際は一冊一冊OP袋入れしようと思っています。
■最後に
WEB再録なので、私が楽しむのはもちろん、せっかくだから本として持っておきたいと思ってくださる方にも楽しんでいただきたいな~なんて考えていましたが、無事にできて本当に良かったです。カバー掛けしながら頬の緩みが止まりませんでした。やっぱり本は最高!
ところで余談ですが、今回、小説のワンシーンを表紙にするというのが、いかに難しいかよくわかりました。シーンが定まっていて、依頼書も細かに指定ができますが、こだわりが強い分、よくあるCtoCサービスのように「ラフ1回修正」ではどうにもならないからです(結局三校は取った気がする…細々とした確認を含めるとそれだけでは済まない…)約13万字の小説を読んでいただくわけにもいかないので、基本仕様のほか、シーン抜粋・構図・構図参考画像・シーン参考画像・キャラ紹介・キャラ表情集などできるだけ丁寧に依頼書を準備しましたが、イメージがあまりにもしっかり頭にあるだけにアウトプットが追いつかず……今回はお世話になっている絵師様だったので、依頼書以外にコミュニケーションも多く重ねてなんとか汲み取って頂きましたが、CtoCサービスなどではやはり難しかったと思います。背伸びした装丁を叶えてくださった絵師様、この場をお借りして感謝申し上げます。
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