頭脳派キャラを書くための2つのポイントを頭脳派ではない一般人が考察してみた

投稿:Smarks運営  
ブックマーク 1

管理人のnoteからの転載です。


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こんにちは、生涯の推しキャラは、ヤン・ウェンリー(銀河英雄伝説)と中禅寺秋彦(百鬼夜行シリーズ)のオタクです。『鵼の碑』出ますね!!!!!(※出ました)

さて、私は彼らのことがとても好きなのですが、このツイートのように、二次創作をするとしたらとても苦労すると思います(実際ほとんどしたことがない)。勿論二次創作ですから、原作を再現するかのような壮大な物語を描くわけではありません。原作の隙間と隙間のちょっとした物語が見たい、妄想を膨らませたいだけ。

だけど、そんな小話であっても、彼らの魅力たる頭脳を損ねたくない……!


ということで今回は、「頭の良いキャラを描くためにはどうしたらいいか」をテーマにした考察です。例としてヤンと中禅寺について書きましたが、二人のことを知らなくても問題ありません。

あくまでもこれは、作家でも何でもない、不敗の名将や憑き物落とし兼神主兼古書肆を生み出すような頭脳はない、せいぜいミステリ好きという程度のごく平凡な一般人が考えてみた、「それっぽく見せるための考え方」だと思ってください。

(考察する上での例として版権キャラを扱っていますが、手法としては一次創作向けかもしれません)


【前提】作品におけるすべての情報は作者が握っている

まず前提として、当たり前ですが「作品における全情報の統括者は作者」です。

※ここでの情報とは「物語上の起きる事件、試練、困難、ルール、常識、解決方法」といったすべての設定を指します

そして「頭脳派キャラ」とは、その情報配分の量と質が他のキャラクターより多いキャラだと仮定します。

これを前提に、「どのようにして情報を設計し分配するか」という視点から、キャラの頭がよく見えるポイントを探りたいと思います。


①情報を分配するための武器を与える

京極夏彦先生の『百鬼夜行シリーズ』に登場する中禅寺秋彦は、安楽椅子探偵的な側面を持っています。彼は、だらだらと続く長い坂を登った先にある古書店「京極堂」の座敷に座り本を読んでいることが多く、自らの足で事件の調査に乗り出すことはあまりありません。

そんな彼の元に、友人知人たちが遭遇した事件に関する情報が齎され、中禅寺は豊富な知識と深い洞察を持って情報を理解・整理・統合し、事件の正体を浮かび上がらせます。


さてここで、頭の良いキャラを書くときに注意したいことを挙げるとすると、以下の図のようになります。



この構図では、情報にアクセスできるのがその人のみであり、他のキャラクターは情報に触れることすらできないことになります。これはたとえるなら、「中禅寺秋彦が神通力を持っていて、誰も見ていないはずの犯行現場や犯人の顔を神の視点から見ることができる」といった設定です。これでは他の人物と前提条件が違い過ぎて、「チート」で終わってしまうでしょう。

大切なのは、「情報にアクセスできる前提条件は他と同じ、もしくは少ないのに、+αの能力により解に辿り着くことができる」(=事件現場という第一線で情報に触れた人以上に、話を聞いただけの中禅寺が知識と洞察によって事件の要点を掴むことができる)という描き方をすること。

この+αが、そのキャラを頭脳派たらしめる武器(=豊富な知識や卓越した洞察力、以下のイラストでいう柄杓)になります。


②キャラを活かす課題設定や世界のルールをつくる

田中芳樹先生のスペースオペラ『銀河英雄伝説』に登場するヤン・ウェンリーは、21歳の若さで英雄と呼ばれる偉業を成し遂げます。それが「エル・ファシルの奇跡」です。

突如侵攻してきた敵国を前に、彼が所属する軍の指揮官は狼狽し市民を見捨てて逃走。かわりに責任者となったヤンは、逃走した上官を「あれは我々の囮となってくれたのだ」といい市民を宥め、実際に囮として、上官と反対方向へ宇宙船の進路を取り逃走。敵国は上官を追い、逃げるヤンたちの船がレーダーに映ったのを隕石群だと誤認。見事市民300万人の避難を完遂させます。

このエピソードを分解すると、「課題・解決方法・解決の妨げ」が設定されており、それを効果的にヤンに対して分配したということが考えられます。


〇課題:

敵国の侵攻から市民300万人をどう避難させるか

〇解決方法:

囮役と反対に逃げる。逃走の際に敵の目を欺く

〇解決の妨げ(解消することでキャラの有能さが際立つ点):

・上官が逃走し、一人残される→「上官を囮にする」という解決方法に寄与する発想&上官を囮にするという常識に捉われない発想

・敵の目を欺く方法は?→「船はレーダーに映らないよう工作している」という作中世界の常識を破る(映るということは宇宙船ではない=隕石である、という作中世界の常識を逆手にとった誤認への誘導)

知性はエピソードによってより効果的に発露します。日常の描写をするよりも事件が起きた方が見せやすい。要するに「どんな課題を解決したらカッコよくクレバーに見えるか」という点を考え、エピソードとして設定するということです。


これはあくまで予想ですが、以上の例でいうと「課題・解決方法」をセットに考え、解決の妨げを、ヤンが一番活きる形で設定・分配したのかなと思いました。先に鮮やかに課題解決しているヤンの姿があり、その鮮やかさが際立つためには、どのような妨げがあればいいのか――という発想の順序なのかなと。

前段で「チート」で終わってしまうと書いた部分がありましたが、たとえばチートな様を先に描く→チートにならないために周囲と条件を均していく、ルールを設定していく、といった順序を取ると、良い塩梅になるかも。

また、ヤンは常識に捉われない発想をする、という点が強みのキャラクターなので、①で書いた「情報をより多く得るための柄杓がある」という点だけではなく、「柄杓は最初からそこにあるが、他の人物は使うという発想がない」という部分を強調して書くといいように思います。


まとめ

以上、頭脳派キャラを描くためのポイントは2点。


①情報を分配するための武器を与える

②キャラを活かす課題設定や世界のルールをつくる


言い換えると「そのキャラだけに柄杓を持たせる」「そのキャラ以外は柄杓を持つという発想がないことがわかるエピソードや世界観をつくる」

実際はこんなに単純なものではなく、この2つの要素は複合的なものですし、更に物語の本筋や各エピソードとどう絡めていくか、日常の言動などの人物造形にも知性は宿ると思います。ただ冒頭にも書いたように、瞬間的に「それっぽく見せる」にはこう考えるといいのかな、という考察でした。

実際のヤンや中禅寺はもっとはるかに複雑で、魅力的で、こんな部分的に切り取った考察、本当にごめんなさい!っていう気持ちでいっぱい……。どちらも本当に物凄い物語なんです。

みんな~~!!! 百鬼夜行シリーズと銀河英雄伝説を読んでくれ!!! 今ならなんと、百鬼夜行シリーズの最新刊を17年も待たずして読めちゃう!

コメント

    まだありません。

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